こんな私、私じゃない。でも私・・・
その時、応接室のドアが開いた。

「あっ・・・」

早川さんが慌てて応接に入ってきた。

「失礼。お取込み中だった?」

新城さんと私が二人だったことに対して、そう言ったのかもしれない。

「いえ」

私はそう言うとテーブルのお盆の上にコーヒーカップが7つ置いてあるのでそのまま手に取った。

「なに?」

と、新城さんが入ってきた早川さんに聞いた。

「あっ、ごめん。俺の忘れてる資料なかった?」

「あったよ。後で渡す」

「わかった。じゃ頼む」

早川さんはそう言うと応接のドアノブに手を掛けたので、一緒に出ようと私は歩き出した。

「美沙」

新城さんが私の名前を呼んだ。私は驚いて新城さんを振り返ってしまった。早川さんがいるから絶対呼ぶはずがない。

その間に早川さんはドアを開けて出ていき、ドアを閉めた。

「仕事中ですので、失礼します」

私はドアノブに手を掛けた。

「じゃ今日、『Sieg Mond』に来て。久しぶりにご飯食べよう」

と、ご飯に誘われた。メインはそうじゃないのはわかってる。

でも、もう会ってしまった。

顔を見なければ続けられたのに・・・

もうダメだ・・・

「わかりました。失礼します」

ドアを開けて応接を出た。

ドキドキせずにいられない。

会ってしまった。名前を呼ばれた。ご飯に誘われた。

新城さん・・・

でもさっき、新城さんは何を言ってたんだろう?

どういう意味だったのだろう?


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