こんな私、私じゃない。でも私・・・
「出よう。ここじゃ話せない」

私たちの周りには人はいなかった。でも本屋で話が出来る環境ではない。

「もう行って下さい。私は何も気にしていませんから」

「ちゃんと説明させて」

二人でエスカレーターを降りて本屋を出た。

「営業所にあるサーバーがダウンしたんだ。楠木さんがプロジェクトでこっちに来てるから俺も一緒に行くことになった。今日も似たような感じ」

そうなんだ・・・

「美沙」

住谷の人たちがここの前を通る。ここで話しするのは目立つ。

「新城さん、もう行ってください」

「美沙」

「私は・・・」

もう「カラダの関係」ではイヤなんです。

そう言いたいのに言えない。

「ごめんなさい」

「俺は、1番じゃなくてもいいから・・・」

新城さんがそう言った。

何を言ってるんだろう?

「今は他にいてもいいから・・・美沙がいいんだ。美沙と過ごせる時間があるなら俺はそれでいいから・・・」

何を言ってるんだろう?

「私は1番じゃないとイヤです」

聞こえるか聞こえないかの声。

たぶん、新城さんには聞こえていない。

「美沙、これ」

と、私の手を取りキーケースを掌に置いた。

「俺の家で待ってて、鍵はこれしかないから絶対家に居てね。そうじゃないと俺が入れないから・・・また連絡する」

そう言って私の返事は聞かずに駅の方へと足早に駆けて行った。
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