こんな私、私じゃない。でも私・・・
新城さんの後ろ姿を見送っていると声を掛けられた。

「お疲れ様です。さっきの新城さん?」

本屋から出てきたのだろう緒方さんだった。

「お疲れ様です」

緒方さんの問いかけには答えない。

「それ鍵よね?じゃ一緒に帰らない?」

手に持ったままのキーケースを新城さんのだとすぐにわかったようだ。

「えっ?あのー」

一緒に帰らない?と、言われても困る。

「一緒に帰りましょう」

緒方さんはそう言うと駅とは違う会社の方へと歩き出したので、とりあえず着いていく。

「あっ私歩きだけど、大丈夫だよね?」

有無を言わせない感じで言われた。

「歩きなんですか?」

「毎日歩いてるの」

歩こうと思えば歩ける距離。でもかなりかかるよね?

「40分くらいだから」

40分を毎日、それも往復って大変。

「新城さんは駅まで歩いて電車みたいね」

「多分。あのー・・・・・・」

新城さんと私のこと・・・・・・

「なんで知ってるの?って顔してる」

気づいたらしい。

「同じマンションだからね。よく来てるでしょう?私の中では二人はお付き合いしてるって思ってるわよ」

なんの疑いもなく緒方さんはそう言った。

「えっあっいえ、そんなことないんです」

緒方さんは不思議そうな顔をした。

「そうなの?」

それだけ言うと何も言わなかった。

私も何も言わない。きっと「カラダの関係」って緒方さんに言っても理解されない。緒方さんの頭の中にそういうことは存在しないと思う。
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