ラブエンゲージと甘い嘘
「ちょっと、いいですか?」

相手の腕を軽く引いて、なるべく丁寧な言葉で話しかけたつもりだった。けれど思いのほか大きくなってしまい、男を囲んでいた女の子たちが私をジロジロと見ている。

「邪魔してごめんねさい。でもきっと私に感謝すると気が来るから、今は許して」

目の前にいる不満顔の女の子たちに、一言謝ってから男の方へと向きなおす。

軽く目を見開き、驚いた様子で私を見ていた男が口を開く。

「あの……どうかしましたか?」

声色も表情も優しい。でも私は彼の裏の顔をさっきのタクシー事件で知っている。

そんな顔しても、騙されないんだから!

それに笑顔に見えるけれど、目は全然笑っていない。私に舌打ちしたときの目と一緒だ。

「どうかって、あなたこそどうしてこんなところにいるんですか?」

「どうしてって……」

「言えないですよね? 今ならまだ大丈夫ですから、帰った方がいいですよ」

声を落として男を説得する。ここで諦めて帰ってくれるなら大袈裟にすることはない。

「どうして、私が帰らないといけないんですか?」

笑顔のままだったが、笑ってない目プラス眉間に皺が入った。だんだんと本性が現れてきた。でもこの場を去るつもりはないようだ。

他の人に聞こえないように、小さな声で話を続ける。

「『女を食いモンにする』なんて言ってたのは、あなたでしょ? 悪い人を見過ごすことなんてできません」
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