俺様紳士の恋愛レッスン
「こんばんは。どうぞお掛け下さい」



背もたれをギシリと鳴らし、こちらに半身を向けた初老の医師。

彼の前には、丸椅子に腰掛ける優愛さんの小さな背中があった。



「大丈夫か」

「……十夜、くん……」



振り向いた優愛さんは、潤んだ瞳をこちらに向ける。

口元を覆う手は震えていて、ただならぬ様子にゴクリと息を呑む。



「ええと、貴方は旦那さんかな?」

「いえ、ですが親族です」

「そうですか。お隣の方は?」



と、医師に問い掛けられて思い出す。


私は親族どころか、ただの、クライアントだ。

残るだとか軽々しく言ってしまったけれど、今の私が恐ろしく場違いなことに気が付いて、慌てて椅子から立ち上がった。



「やっ、えと! 私やっぱ外で待ってます!」



そう言って扉へ一歩、踏み出した時だった。

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