俺様紳士の恋愛レッスン
「十夜、待って!」



チャコールグレーの背中は私を華麗にスルーし、スピードを緩めることなく歩き続ける。



「もう、待ってってば!」



ようやく追いつき、彼の袖口をぱっと掴んだ。

すると急に歩みが止まり、慣性の法則に従って、私の身体は「ぎゃっ!」と彼の背中に打ち付けられる。



「ッたぁ! なんで急に止ま――」

「十夜!」



小走りで追いかけてきた旦那さんは、私を神妙な面持ちで見つめる。



「十夜の彼女さんですか?」

「へっ?」



そこで、今自分が十夜の背中にしがみついていることを思い出し、慌てて手を離す。



「いえっ、これはただの追突事故であって、彼女ではありません!」

「そうですか……。妻を助けて下さって本当にありがとうございました。お礼は後日必ず」

「私はタクシーを呼んだだけで何も! 優愛さんを運んだのは十夜ですし!」



そうナチュラルに話題を振ってみたものの、十夜は背を向けたままピクリとも動こうとしない。

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