俺様紳士の恋愛レッスン
「……十夜、本当にありがとう」



旦那さんが声を掛けても、十夜はだんまりを決め込んでいる。

無言の二人に挟まれた私は、気まずいどころの話ではない。


旦那さんと十夜の背中を交互に追って、何か言わなければと言葉を探した、その時だった。



「よかったな」



沈黙を断ち切ったのは、抑揚のない声。

読み取れない感情に、胸がズクンと痛む。


せめて悲しさだとか、切なさだとか、そういう感情を表に出してくれればいいのに。

そうしたら、慰めも同情も、遠慮なくできるのに。


感情を抑えていると分かるから、否、殺していると分かるから。

見ているこちらは、余計に辛い。



「……ありがとう」



旦那さんの微笑みに含まれた、複雑な想いを感じ取り、切なさに拍車がかかる。

再び熱くなる目頭と、締め付けられるような胸の痛みに耐えられなくなった私は、チャコールグレーの背広をぎゅっと掴んだ。

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