俺様紳士の恋愛レッスン
「十夜」



私の声に反応して、彼はほんの少しだけ、顔を横に傾けた。


気の利かない私には、今の彼に掛ける言葉など見つからない。

けれどここで何も言わずに去ってしまったら、きっと十夜は後悔をする。

そんな気がしてならなくて、私は強く、唇を噛み締めた。


見上げる私と、見下ろす彼。

その視線が交わった時、優しい声色が落とされる。



「大事にしろよ」



静かなフロアに、じんと熱い沈黙が流れた。

十夜は続けて「行くぞ」と呟き、前を向いて歩き出す。



「……あっ、では失礼しますッ!」



私は旦那さんに大げさに頭を下げると、十夜の背中を追った。


互いに無言のまま病院を出ると、十夜は客待ちのタクシーへと向かい、後ろを振り返る。

数時間ぶりに正面から交わった視線には、感情の色が見当たらない。

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