俺様紳士の恋愛レッスン
「おせーよ」



不機嫌な声色が雨音に混じって落とされた。

顔を上げれば、暗く濁った灰色の景色に、白いワイシャツのシルエットが浮かぶ。

逃げたい気持ちが私に後ずさりをさせるけれど、近付いてくる視線は私を一路に捕えて離さない。



「で、これはなんの涙?」



溜まりに溜まった涙の粒を、十夜の親指がぐいと拭う。

斜め上から寄せられた瞳はまた私の心を覗こうとしていて、堪らず顔を逸らしてしまった。



「十夜……あの、あのね……」

「ここじゃ濡れる。行くぞ」



「え?」と私が言うが早いか、手首を掴まれ、そのまま強引に連れて行かれた。


強さを増した雨がアスファルトを漆黒に染め上げる。

手首から伝わる熱のせいで、折角拭ってもらった涙はまた溢れて、止まらない。

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