好きだからキスして何が悪い?


何の答えも出せないまま悶々とした日々を過ごし、夏休みも終了間際。

そんな土曜日の午後6時、バイトを終えて自分の部屋でひと息ついていると、テーブルの上に置いたスマホが鳴り始める。

取り上げて見ると、登録されていない携帯番号から電話が掛かってきていた。


「誰だ……?」


怪訝に思いながらも、とりあえず出てみるかと通話をタップする。


「はい、如月です」


何気なくスマホをあてた耳に、予想外の声が響く。


『奏か?』

「──え?」


一瞬聞いただけでは、誰かはわからなかった。

でも、俺を名前で呼ぶ低い声の主は限られている。

まさか……?


『俺の声、もう忘れちまったのかよ』


小さく笑いを漏らしながら言われて、予想が確信に変わった。


「お、とや……!?」


この声、この話し方……間違いない。

でもまだ信じられず、俺は立ったままうろたえる。


「音哉? 音哉なのか? 何で、どうして電話……!?」

『はは、テンパりすぎだろ』

「テンパるに決まってんじゃねーか!」


軽く笑う兄貴に、つい叫んでしまった。

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