恋人境界線
間違える訳がない。
あたしと同じ香り。
本館から離れ孤立したパソコン室のドアを開けると、他の学科の学生たちがレポート作成の為なのか、占領していた。
ドアから近い、一番隅の空いた席に座り、電源を入れる。
すぐに、大学のホームページにアクセスされるシステムになっていて、サークル活動のページを開いた。
真夏の海をバックに、満面の笑顔を浮かべる薫の写真。隣には、小さく微笑む春臣の姿。
「……っ」
――どうして薫も、同じ香水を?偶然にしては、悪戯が過ぎる。
昨日買ったばかりだ。その後、二人は接触してたの?
夜の公園で、鳴り止まなかったバイブ音。警告のように、あたしたち二人に巻き付いていた。
あたしと別れた後、春臣と薫が会っていたのだとしたら。
『志麻はさ、思ってることが顔に出ないよな』
香り付いた自分の手首を、強く握る。鬱血するほどに、強く。
『いつも一人で、平気な顔して済ましてる』
よく言うわ。
平気な顔をしているのは、春臣の方じゃない。
あたしの前でも、写真の中でも。
あたしは、こうして他の痛みで感覚を麻痺させないと、心を保てないのに。