恋人境界線

視界がどんよりと暗くなり、ふと顔を上げた。


「か、薫……」


胸の奥がばくばくする。
意識して、息を整えた。

すぐ目の前に立ちはだかっていた薫は、「ちょっと今、いい?」無表情のままで言うとあたしの答えも聞かずに、ふらりと踵を返した。


「う、ん…」


薫の方から来るなんて。さっきは、シカトしたのに。

心の準備をしながら、あたしは薫の後を追う。
パソコン室を出た薫は、木陰のベンチに座った。本館に続く道なりに植えられた、こぶしの木。


「あたし、志麻に相談があるの」


開口一番、彼女の顔は穏やかだった。
春臣とのことを、厳しく言及されるだろうと覚悟していたから、あたしは拍子抜けしてしまう。


「春臣が、最近あたしに冷たいんだよね」


言いながら、薫は視線をこちらに流した。横顔を凝視していたから、おのずと目が合う。


「どうしてか、志麻にわかる?」
「っ、」


見誤った。穏やかなんかじゃない。
薫の表情には、まるで温度がない。薄紙で作って、貼りつけたかのよう。人間らしさが皆無だった。
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