恋人境界線
『春臣ね、ずっと、名前呼んでてくれるんだよ』
付き合ってたんだもの、そういう行為があって当然だけど。
生々しい想像なんて、したくない。
「…嫌だ…っ」
したくないのに。
どんな風に呼ぶ?
どんな風に触れる?
言うことを聞かない頭が、無意味に想像を掻き立てようとする。
耐えられずに、拳を握って俯いたときだった。
「――志麻、」
空耳かと思った。
春臣が薫ではなく、あたしの名前を呼ぶ声を、記憶の中で手繰り寄せていたから。
けれどもその声は、いたく現実的だった。
「ま、真島くん……」
「志麻が学祭用の冊子作り代わってくれるって静佳が言ってたから、探してたんだ」
「ああ、そっか…」
春臣じゃなかった落胆と、薫への嫉妬とで、あたしは今救いようのないくらい醜い顔をしているだろう。
強風に乱された横髪を耳にかけながら、取り急ぎ相手に笑顔を向ける。
「これに今までのイベントの写真入ってるから、データ使って」
デジカメを手渡されて、「あ、ありがと」あたしは受け取る。
用が済んだのかと思いきや、真島くんは隣に座った。