恋人境界線
日本本土に上陸した台風は、経路の転換を繰り返し、加速しながら北上している。上陸したのは、一年振りだそうだ。
朝、窓を叩きつける風の音で目が覚めた。
講義は休講になり、昼過ぎまでぼんやりと家で過ごした。
努めて頭をクリアにしても、浮かんでくるのは春臣と薫のこと。
誕生日だった昨夜。二人は、一緒に過ごしたの?
『春臣ね、ずっと、名前呼んでてくれるんだよ』
ベッドに寝そべり、身体を丸める。
布団に埋めていた顔を上げると、テーブルの上に置いていた香水の瓶が目に入った。
――あ、そっか。
薫への、誕生日プレゼントだったんだ、って。
ようやく気付いて、涙腺が崩れそうになる。
ぬか喜びも甚だしいわ。
『志麻を独占したくて、理性失いそうになる』
苦しそうにそう言った春臣の表情は、手に取れない香水の香りのように。
残したくても、残らない。一度、あたしの心に浸透したかと思ったら、すぐにまた所在なく、消えてゆく。
誰を信じたらいいのか、もうわからない。
自分の気持ちさえ、壊れてしまいそうだ。