恋人境界線
あたしと同じような人もいるんだな。
こんな大荒れの日に、傘も差さずに外に出るなんて。
「っ……ま!」
ごうごうと鼓膜を刺激する風の音に紛れて、声のような音も聞こえる。
気にしてる余裕もなく、夢中で足を動かす中で。
「――志麻!」
今度ははっきりと、先ほどよりもクリアに聞こえた。あたしの名を呼ぶ、叫び声が。
顔を汚す雨水を手で拭い、薄目を開けて声のする方を見る。水溜まりもものともせずに、飛沫を上げて駆け寄って来る人物。
「な、なんで……」
「車で来たから、こっち!」
春臣だ。
濡れた手であたしの腕を引くと、小脇に挟んで雨をしのいだ自分のシャツを、頭に被せる。
「…っ…」
「志麻、早くこっちへ」
雨の寒さと、風の強さと驚きで足がすくんでしまったあたしの肩を支えた春臣は、駐車場に停められた黒い車に誘導した。
「乗って。」
「…っ、」
「早く」
躊躇いながら、助手席のドアを開ける。全身がびしょ濡れだから、シートに座るのがはばかられる。
だけど春臣はそんなこと気にする様子もなく、運転席に乗り込みエンジンをかけた。