恋人境界線
ワイパーを最大の速度で動かし、発進させる。
シャツを剥がそうとするあたしの手を制し、「被っとけ。っつっても、それも濡れてるか」筋肉質な腕で、自分の額の滴を拭う。それが雨水か、汗なのかは、わからない。
「うぅわ、視界最悪。志麻、寒くない?」
しかめっ面っぽく笑った春臣は、あたしのせいでTシャツ姿。
一昨日まではあんなに暑く感じたのに、まだまだ夏の延長だなぁ、なんて思っていたのに。
「ど、どうして……?」
「いやだって、体冷えただろ?」
そうじゃなくて。
どうして寒いかって聞いたかではない。あたしが聞きたいのは、どうして、春臣が大学に、いたのか。
「……もしかしたら、今日もパソコン室に来てんじゃないかと思って」
全身が震えた。
春臣のシャツで、顔を隠す。肩が小刻みに震えているのが、ばれていないことを願う。
「志麻の家って、こっちだよな」
「…っ、うん…」
信号が点滅している。
低い土地だから、道路脇の側溝から水が溢れていた。通りにくい道の迂回を繰り返す。
数分後。辿り着いたのは、大学から近い春臣のアパートだった。