恋人境界線
あたしの家は遠いけど、ゆっくり時間を掛けて慎重に運転したら、行けないこともなかった。
春臣のアパートで手を打った理由は、くしゃみ。
「タオル、使って」
女の子は体を冷やすもんじゃない、だなんてオヤジ臭いことを言って、連れて来られた。
それでも、一人で家まで帰る気力もない。
せめて、台風の目に入るまで、間借りすることにした。
「ありがと」
「シャワーも、好きに使っていいから」
洗い立ての真っ白なタオルで濡れた髪を拭き、あたしはドアのそばにつっ立っていた。
初めて来る、春臣の部屋。
テレビの脇のメタルラックに、使いかけの香水たちが無造作に並んでいる。
その中に、真新しい黒いボトルの香水は、なかった。
「あんま観察すんなよ?」
「女の子に見られたらヤバいものでもあるの?」
「ねーよバカ!」
「……」
「なんだその目は。俺はエロ本読まない主義なの」
水分をたっぷり吸収したTシャツを脱いだ春臣は、上半身裸姿をあたしに晒す。
「…、春臣先にシャワー浴びなよ。あたしは浴びなくたっていいから」