恋人境界線
「俺は平気。男の方が丈夫だから」
目が合って、所作や肉体を見つめてたのがばれて。
反射的に顔を背けたあたしに、「なあ、志麻」春臣は落ち着いた声色で言った。
窓を割らんばかりに強く叩きつける風よりも、あたしの動悸の方が遥かに激しい。
「帰れなくなったな」
「…っ帰れるわ。台風の目に入った隙に、帰るから」
嵐がきた。
暴風雨に、行き先を阻まれる。周りの人を巻き込んで尚、暴れ、理性を少しずつ削ぎ落とす、嵐。
気まずさを消すために、あたしはシャワーを浴びた。いつ、訪れるかもわからない台風の目を、春臣と同じ部屋で待つのは耐え難い。
全身をくまなく洗うことに集中して、シャワーを終えた後。後先考えずに行動に出たことを、とたんに悔やんだ。「…服、濡れてんじゃん」
でも、まあいいや。
どうしてか、すべて投げ遣りな気持ちになった。
濡れた服に袖を通す。そんな仕打ちもいいじゃないか。そして、早くこの部屋を出よう。
シャワーを止め、浴室を出る。
すると、入ったときにはなかったバスタオルが、準備されていた。