恋人境界線

その下にはご丁寧に、畳まれたスエットの上下。


「……」


優しくされるといちいち、泣きたくなる。
好きだって再確認する自分が、虚しくて。

着てみると、あたしの体には大きすぎて、余った胸元や長い袖から、ほんのりと春臣の匂いがした。
香水などの人工的な匂いじゃなく、春臣本来の、香り。

息を整えて部屋に戻る。
あたしの張り詰めた緊張感は、一瞬にして弾けた。
ベッドに仰向けになった春臣は、穏やかな寝息を立てている。


「…春臣?」


ベッドのそばに歩み寄ると、膝を付いて春臣の顔を覗き込む。長い睫毛は微動だにしない。

すっと高く通った鼻筋、二重瞼、程よく薄い唇。
春臣が付き合ってきたあたしの女友達は、皆この整った顔立ちに、まず初めに落ちる。


「…寝てるの?」


そっと頬に触れる。

酷い男。
思わせ振りで、来る者拒まず、掴み所のない。ああ、なんてずるい男なの。

一体今まで何人の女を泣かせてきた?
ハマって抜け出せないるあたしもあたしだ。

こんな、厄介な男。


「――香水もいいけど、」
< 57 / 96 >

この作品をシェア

pagetop