恋人境界線

「痛くして、ごめん」


あたしは精一杯、かぶりを振った。

もう、いいかなって思った。
本気で薫が好きなのか、それとも情で別れられないのか。そんなのは、今のあたしにとっちゃもう、どうでもよくて。

大切なのは、あたしを見守る春臣の目が、ひどく愛おしげだということだ。
丁寧に愛撫しながら、必死に我慢しているように見えて、堪らなく愛おしい。


「志麻、ごめんな」


くわえた春臣の人差し指を、歯で引っ掻く。そんなあたしを見て、相手は一瞬だけ、頬を緩めた。
余裕のない春臣の顔を、初めて見た。

この部屋に入ったときから、こうなるであろうことを、あたしは心のどこかでとっくにわかってて。
受け入れるも、拒むもなかった。あたしたちは同等で、同罪なのだ。


「…っ、痛…」


体感したことのない痛みに、顔が歪む。
春臣の指を強く噛んだ。跡が残るくらい、きつく。


今、この時間。お互いが、欲しかった。
好きだからもっと近づきたい。ただそれだけだった。

好き、だった。
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