恋人境界線

「それより、真島となに話してたの?ずっとこっち見てただろ」
「え、別に…」


言い淀むあたしを前に、春臣の目は釣り上がってゆく。
口調もいつもより数倍、刺々しい。


「やっぱり怒ってんじゃん。まだノートのこと根に持ってんの?」
「怒ってねって。全然」
「嘘だ怒ってるよ。唇尖ってるもの」


なんかもう、わけがわからなくなってきて、胸が苦しくて、泣きたくなった。

恋するのも、やめたくて。

だけど吹っ切る勇気もなくて、ずるずると5年間も報われない想いを抱いてきた。


「…違ぇよ」


目的地までは、あと少し。
ノートを持ってあたしは、席を立つ。すると、「志麻、待てよ」手首を掴まれた。


「怒ってんじゃなくて。キスするために尖ってんの」
「――っ」


腕をぐいっと引かれて、唇の表面が、ようやく暖かいと感知する程度の、短いキスを落とされる。


「あ、悪。引いた?」


なんでもないように言った春臣の顔。
まともに見られない。なにが起きたのか、理解できない。唇に残った感触を、指先が確かめる。
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