恋人境界線

事の重大さをしっかりと理解する前に、春臣が席を外した。
空いた座席に、あたしは体を落とす。もたれるように背もたれに体を委ねて、考える。


「…っ、」


キス、された――
春臣に、キスされた。
今更ながら、動悸が激しくなってきた。


ていうか、
“引いた”、ってなによ。これからも、あたしたちの関係は変わらないのだと思う。冗談めかしな口振りと、去って行った背中が物語っている。

この恋に、行き先なんて無い、と。


「志麻ー、そろそろ海に着くよ!」


友達が呼びに来て、あたしは頑張って腰を上げる。
一泊分の荷物が詰まったバッグを持って、のろのろと、駅におりた。

潮の香りと、眩しすぎる太陽。


「楽しみだねー!海!あたし水着も新調したんだよ」


改札を前に春臣の腕にぴったりと寄り添う薫の姿が見える。


「そっか、楽しみだな」
「やだぁ!恥ずかしいじゃん」


来たときよりも、より濃くなった、境界線。
ひとたび近づいたと思っては、また離れる。

夏の空はこんなに明るくて、風は澄み渡っているのに。
あたしには、この恋の終わりがよく、見えないの。
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