椎名くんの進級
「先輩。。。俺、先輩が好きでしたぁ。」
ついに、椎名が絶叫した。

「厳しいけど、優しくて、賢くて、可愛くて。天然で。無神経で。でも本当はとても繊細で、臆病で、寂しがり屋なんだ。好きだったんだ。本当に。」
 俯いて、嗚咽のように絞り出す。誰もが椎名の気持ちを知っていて、彼のために叫び、沈黙した。

「みんな知ってるよ。だから、先輩にだってちゃんと伝わってるよ。」
 高橋が椎名に言う。気が弱くて頼りなく見える高橋だけど、いつだって仲間を気にかけている。付き合いが良くて、言えば必ず手を貸してくれる藤沢は、要領も良いし器用で頼りになる。不器用だけど、一途で真面目な椎名。そして俺。

 俺達は本当に良い仲間になれたと思う。それはきっと真ん中に椎名がいたからだ。俺達の偶像に本気で恋した椎名を、彼の報われないであろう恋を、みんなが見守っていたからだ。

 大人がよく言う友情を育むなんてことをした覚えは無い。偶像はすでに地に落ちた。けれど、演劇部、裏方組の同期4人。このチームは結実し、俺達の今この瞬間は、俺の心の中にずっと残るだろう。俺達がいずれ別々の道を歩き、すれ違い、離れて、二度と会う事が無かったとしてもだ。
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