坂道では自転車を降りて
 さっきの光景は、なんだったんだ。近くにいたのに、何もできなかった。俺は頭に血が上って目眩がしそうだった。目を閉じてさえいなかったら、もっと早く気付いて、助けてあげられたかもしれないのに。しっかりしてたって、大きく見えたって、実際には女の子の身体は小さいし、非力だ。少しでも隙があれば簡単に男に穢される。だからこそ、卑怯な男は許せない。俺が目を閉じてまどろんでいた5分ほどの間に、俺のすぐ近くで、俺の知ってる女の子が。。。彼女の感じた恐怖と失望を思うと、身体が震えた。

 彼女は俺に気付いていただろうか。ほんの一度、名を呼んでくれたら、目を開ける事が出来たかもしれないのに。それとも何度も呼んだのだろうか。男の手で口を塞がれた彼女の顔を思い出す。ただ目を閉じて、まどろむ俺を、一度は視界に納めたかもしれない。助けを求めて俺を見る視線が目に浮かぶ。考える程に気が遠くなった。
 学校の門をくぐったところで本鈴が鳴った。隣のクラスの前を通るときに中を覗いたが、彼女の席を知らないので、いるかいないのか通り過ぎる間だけでは分からない。ドアから覗こうかとも思ったが、ホームルームが始まるのに、隣のクラスをしつこく覗いていたら目立ってしょうがない。何の用かと聞かれても困る。ドアの近くでグズグズしていたら、担任に後ろ頭をはたかれ、早く自分の教室へ行けと言われた。諦めて自分のクラスに入ったが、彼女がどうしたのか気になって、窓から廊下ばかりを見ていた。1時間目が終わって隣の教室を覗くと、席について筆箱を片付けている彼女を見つけてホッとした。でも、保健室とか行かなくてよかったんだろうか。

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