坂道では自転車を降りて
「大野さんっ。」
大きな声を出したつもりだったのに、咳き込んだようにかすれて小さな声しか出なかった。俺の声は喋り続ける車内アナウンスにかき消されてしまった。ホームを滑っていた電車が、また大きく揺れて停まった。彼女に向かって進もうとしていた俺はよろけて、倒れそうになる。なんとか堪えたら、今度は突然ドアが開き、人が一気に車外へ流れて行く。ホームに向かって飛ばされた。なんとか転ばずに持ちこたえたが、今度は方向感覚を失ってしまった。

 どっちだ。顔を上げようとしたが、人の流れに押されてまた俺はよろけた。流れを避けてなんとか立ち上がると、俺はぐるりと周囲を見渡す。彼女のいた方を見たが、すでにドア付近には人の流れがあるだけで、もう誰もいない。彼女も降りたのだろうか。あの男達は。。ホームを見渡すと、体格のいい男達が涼しい顔で電車に乗り込むのが見えた。追いかけようと走りだして気付く。彼女がいない。
 俺はホームの人の流れの中に彼女を捜した。人が多くてなかなか見つからない。同じ制服を着た女子が急ぎ足で何人も通り過ぎた。電車がまた人を飲み込み始める。ドアが閉まり電車が走り去ると、降りた人の流れもしだいにまばらになった。
 人が掃けたホームに、俺は一人残って、いつまでも彼女を捜していたが、見つからないので、諦めて学校へ行く事にした。

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