坂道では自転車を降りて
「あぁ、顔は多分見られてないよ。俺、後ろから声かけただけだもん。」
「でも、本当にもうやめなよ。いつか怪我するから。」
「いや、俺もいつもそんなことしてるわけじゃないんだ。今回はたまたま続いただけなんだよ。」
「そりゃ、あの時、助けてもらえたら嬉しかったと思うよ。でも、自分が悪かったんだし、それで、神井くんが怪我するくらいだったら、私、大人しく触られてるよ。あれくらい平気。」
「なっ。何言ってんだよ。ダメだよ。そんなの。」
「でも、本当にそう思うの。だから、無茶しないで。お願い。」
「分かった。」
「噂、あまり広がらない間に収まるといいね。」
「あぁ、それは心底そう思う。」
 でも、君がそんな風に思ってくれてると知ったら、もうどうでも良くなったよ。俺の口から安堵のため息が漏れた。よく晴れた昼下がり、図書室には爽やかな風が吹き抜ける。夏服に着替えた彼女の腕は相変わらず細くて、柔らかそうだった。
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