坂道では自転車を降りて
 なんとなく顔が見たくなって、昼休みに図書室へ行くと、大野多恵はいた。俺を見ると笑顔で手を振った。いつもなら頷く程度で返すのだが、今日はホッとして立ち止まってしまったら、どうしたの?という顔をされた。

 文化祭の脚本が出来上がってからは、俺はあまり図書室へは来ていなかったので、ここで会うのは久しぶりだった。
 見るともなく本の背表紙を眺めていると、後ろから肩を叩かれた。
「神井くん、痴漢追っ払ったって、噂になってる。」
「あぁ。」
俺はがっかりして頭を垂れた。

「えっ、何、なんかまずかった?違うの?」
「違わないけど、なんか、君の時は助けられなかったのに、って思って。」
「すごい目つきで追い払ったって、聞いたよ。」
「。。。違うよ。声をかけただけだよ。」
「やっぱり,本当に声かけたんだ。怒鳴って睨んだの?」
「ごめん。嫌な事、思い出しただろ?」
「いや別に。。それはもう良いんだけど。」
やっぱり単に俺の考え過ぎだったのか。なんか、俺バカみたいだな。

「神井くん、そういうのもう止めた方が良いよ。」
「何が?」
何の話だ?
「神井くんが危ない。」
「へ?」
「逆切れされたり、逆恨みで、刺されたりするかもしれないじゃん。」
その時は考えていなかったけど、言われてみればそういう可能性もない訳ではないな。

「。。。。確かにそうかもしれないけど。」
「もうやめなよ。」
「でも、あんなの、ほっとけないよ。」
「でも、顔見られないようにとか、恨まれないように気をつけて。噂が立ったりしたら、探しあてる事も出来ちゃうんだよ。あんなことする人はもともと頭がおかしいんだから、どんな逆恨みされるか分からないじゃん。絶対、関わらない方が良いよ。」
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