坂道では自転車を降りて

 彼女は俺の肩につかまって立ち上がる。彼女の腕の水滴を拭っていたら、また気づいてしまった。細い指先には接着剤とティッシュがこびりついている。
「これも、洗うか?」
「そうだね。ありがとう。」

出過ぎたまねかと思ったら、彼女は素直に頼んで来た。もう少しの間、こうしていられる。

 接着剤はなかなかきれいにはとれなかった。ぷにぷにした薄い指先、あまり力を込めると痛そうだが、優しくこするだけではとれない。彼女も疲れてきたらしく、俺の背中にもたれかかる。

「もういいよ。疲れたでしょ。私も疲れた。」
「ごめん。あまりとれないや。」
「ここまでキレイになったら十分だよ。あとは時間が経ったらとれるよ。ありがとう。」
昨日まで、ほとんど目も合わなかったのに、突然、笑顔でまっすぐに見られ、照れくさい。ハンカチを出して濡れた右手を拭いてやった。

「腕、細いな。」
「そうかな?」
「筋肉がどこにあるのか分からない。」
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