坂道では自転車を降りて

 本気でビビった。まずい。これじゃあ、鈴木先輩の二の舞だ。落ち着け。彼女はそういう子なんだ。気にしたらダメだ。本を書くふりをしながら、彼女の様子を盗み見ると、絵を仕上げているのか、笑顔で熱心に鉛筆を走らせていた。ほら。もう絵を描いているじゃないか。

 予鈴がなった。彼女を盗み見ていた俺は、突然のチャイムにまたビビり、何かとがめられたような気分になって、焦って立ち上がった。
「じゃ、じゃあ、また放課後にね。」
そそくさと挨拶して図書室を後にした。

「ん。ああ。またね。」
 彼女は夢中で絵を仕上げていて、スケッチブックから顔を上げなかった。ほら、まだ描いてる。表情も普通だ。俺は逃げるように階段を降りた。なんなんだよ、あの子は!心臓に悪すぎるだろ。

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