坂道では自転車を降りて
 そしてこの事態だ。彼女がここまであからさまに誰かを避けるなど、初めての事だ。去年は上級生にあれだけ嫌がらせされて、怪我まで負わされたのに、彼女は逃げたりせずに堂々と顔を合わせ、誠実に接していた。それがまた反感を買っていたようにも思う。

 何かされたのかと思って神井に聞いてみたけど、神井は思い当たるところがないという。嘘をついているようには見えなかった。仕方ないので、直接本人に聞いてみる事にした。


「大野さん、神井となんかあったの?」
大道具の作業はあらかた終わっている。1年を帰して日誌を書き始めた彼女に声をかけた。

「別に、何もないよ。」
ちょっと困った笑い顔。泣きそうにも見える。
「なんか、大野さん、最近、元気ないし、あいつを避けてね?」
「そうかな。」
誤摩化そうとしていたけど、黙って見つめると、俺に嘘は通じないと思ったのか、俯いてぼそぼそと話し始めた。

「。。。なんか、怖くて。」
「神井が?どうして?この前まで、普通にというか、仲良くしてたじゃん。何かされたの?」
「へへ、叱られちゃったの。」
叱られた?なんで?ってか、それだけ?
「何で?」
「。。。。うっかり、いつもの調子で、神井くんの前髪に触ろうとしたの。そしたら、バッて手で払われて。俺に触るなって。ちょっと、びっくりした。」
声が震えている。俺は何も言えなかった。悪い予感が現実になって目の前にある。
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