坂道では自転車を降りて
「僕がいるよ。今までも、これからも。」
「ありがとう。ねぇ、私、そんなに元気なかった?」
「うん。かなり。」
「そう。特に落ち込むような事は何もなかったんだけどな。」
「。。。。。」
何もなくないだろ。現に今、泣いたじゃないか。どうしてこんなに鈍感なんだ?君は自分の痛みにさえ気付かないのか。本当にバカというか。なんというか。

「でも、、友達っていいね。」
「そうだな。ずっとこのままでいたかったな。」
「なんで過去形?」
「別に、今すぐどうってわけじゃないけど、人は変わって行くからな。」
「ああ、あの脚本ね。そうだね。神井くんの本って、いつもすごく不思議。知ってる筈なのに分かってない事に気付かせてくれる。」

 思わず苦笑いしてしまった。君は俺が何を言っても神井の事に繋げてしまう。君の心いっぱいにあいつがいるのに、本当に自覚がないのか?

「そうだな。あいつ、すごいな。」
「すごいよね。」
「俺は、君の隣にいるよ。これからも。」
たとえ君の心があいつでいっぱいだったとしても。
「うん。ありがとう。」
 彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。いつも先輩がしてて、でも、なんとなく俺はしていなかったそれを、今日はしてみた。彼女の頭は思っていたよりも小さくて、髪はとても柔らかかった。
 彼女は、いつもの笑顔で笑った。今日初めて俺が君の髪を撫でたという事に、多分、君は気づいていない。
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