坂道では自転車を降りて
 あらためて、しっかりと抱きしめる。俺の躯に隙間なく沿う柔らかくてしなやかな躯。膨らんだ胸のふわふわとした感触。草むらの匂いにしばし酔う。さらさらの髪を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じ、頬を胸にすりつけてきた。猫みたいだ。
「ね、多恵って呼んでもいい?」
「。。。。はずかしいよ。」
「二人の時だけでいいから。」
「二人の時だけだよ。」

「多恵。」
呼んでみると、彼女は、怪訝な顔をした。
「。。。。やっぱりなんか、変な感じ。」
「なんで、ダメ?」
「ダメじゃないけど。。」
「ねぇ。」
「なあに?」
「やっぱり多恵って呼びたい。多恵。」
「はい。」
「好きだよ。」
「うん。」

はにかんだ笑顔で目を伏せる。耳たぶまで真っ赤に染めて、可愛いったらない。この耳に息を吹きかけて、いたずらしてみたくなる。怒るかな。。
「ねぇ、多恵。」
言いながら、耳元にそっと、息を吹きかける。
「んぁっ♡」
ぴくんと躯が震え、普段とは違う声がした。

 彼女は顔を真っ赤にして耳を隠し、何をするの!といった表情で俺をみた。唖然とした顔がすっげー可愛い。俺はかまわず、彼女の手を掴み、強引に耳から引き離す。がんばって力を込めてるように見えるのに、腕は簡単に動いた。女の子って、こんなに非力なのか?っていうか、手首細っ。手も柔らかくて、ぬいぐるみか?
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