坂道では自転車を降りて
「神井」
呼ばれて顔を上げると、先輩がにやりと笑った。突然、強烈な痛みが腹にめり込んだ。息ができない。目が眩む。躯がくの字に曲がったまま、しばらく動けずにいた。いてぇぇぇっっ。
「川村の分だ。」
ということは、この後、先輩の分も来るのか?冗談だろ。
「立てよ。まだ終わりじゃないぞ。」
「はいっ」
立ちたくねぇっ。やせ我慢もいいとこだったが、気合いを入れて返事をした。先輩にだけは、格好悪いところは見せられない。膝に手をつき、なんとか立ち上がる。
「いい返事だ。」
もう一発くるっ。怖ぇぇぇ。でも、怯むな俺。覚悟を決めて背筋を伸ばし、腹に力を込めた。と、こんどはほっぺたをつねり上げられた。
「いででででで。」
「はははははは。」
先輩は俺の顔をみて笑った。
「俺のは、こんなもんだ。」
「ってぇ。。なんなんですか。」
先輩はふっと息を吐いて言った。
「もういい。結局 決めたのは多恵なんだろ?」
「。。。はい。」
「多恵は、こんなやつのどこがいいんだろうな。俺や川村じゃなくて。目つきは悪いし、口も悪いし。多恵を扱えるとは思えん。」
「川村にも似たようなこと言われました。」
「泣かせたら、また、殴りに来るからな。」
「それも、言われましたよ。」
「まあ、がんばれ。」
「はい。」