坂道では自転車を降りて
いたずら
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 10月なのに珍しく雨の日だった。朝、下駄箱で上履きへ履き替えようとすると、上履きの中に石が入っていた。河原にあるような丸くてツルツルした石。文鎮にできそうなくらいデカい。石にはマジックで顔が描いてあった。くりっとした目がビックリしているような笑っているような、面白い顔だった。石の下には手紙があって、「おはようございます。雨でも元気でがんばりましょう。」と書いてあった。朝からテンションが上がる。名前はないけど、彼女だなと思った。

 昼休み、図書室で会った彼女に声をかける。
「雨でもちゃんと頑張ってますよ。笑。」
「神井くんは雨嫌いなの?」
柔らかな笑顔が返って来た。あれ、なんか、ちょっと通じてない感じ。今朝のことだから、忘れてるのかな。

「私、雨は雨で結構好きだよ。静かだし、景色が綺麗だから。水に包まれる感じが好き。久しぶりだから街路樹も嬉しそうだよ。」
「そうなんだ。そうだね。」
「でも、雨が好きな人は少ないかもね。不便な事も多いから。」
「うん。俺は、雨だと早起きしないといけないしな。」
「ああ、そうか。自転車使えないからね。」

なんか、雨でも元気でがんばりましょうって、今朝の手紙と繋がらないな。

 次の日にも、下駄箱の隅に避けておいた石が、また上履きの中に入っていて、「今日はいい天気ですね。」
と書いてあった。石に描かれた可愛い顔を眺めながら、独りニヤけていると、北村さんが登校して来た。

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