坂道では自転車を降りて

 しばらく脚本を書いていると、背後で人の気配がした。後ろに誰かいる。驚いて振り向くと彼女がモニターを覗き込んでいた。
「っっ。。。。。びっくりした。急に振り向くから。」
「びっくりしたのは、こっちだよ。何してるの。」
「ごめん。脚本、どんなか気になって。見てて良い?」

答える前にモニターを覗き込もうと、俺の前に顔を出す。柔らかな髪が俺の鼻先に触れてくすぐったい。
「あー、、、うーん。」
「やっぱりダメ?」
振り向くとまた髪が揺れる。顔が近い。ってかすげーいい匂い。

「いや、いいけど、なんか上手く行かないんだ。もう1週間くらい、全然進まなくて。」
「そうなの?」
どこへ行っても、脚本は進まない。。何か不幸な巡り合わせのように感じ、しばし途方にくれた。彼女は無言でさらに身を乗り出し、キーを操作しはじめた。身体が肩に触れて、俺はあわてて身を引く。

「最初から、読んで良い?」
「どうぞ。」
少し気恥ずかしかったが、どうせ来週には彼女の手にも俺の書いた本が手渡されるのだ。
(今日も進みそうもないな。)
投げやりな気分で、モニターを眺める。彼女は俺の肩に手を乗せたまま読み始めた。ページを進めようとキーを操作する度、身体がふれあう。彼女の息づかいがやたら大きく耳に響いて、吐息が、、、。俺はたまらず立ち上がり、自分の座っていた椅子を空けた。
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