坂道では自転車を降りて
「もしかして、料理、苦手?」
「えっ。不味い??」
「いや、普通だけど。でも、何かが足りない感じ。」
さすがに不味いとは言えなかった。多分、足りないのは食材ではなく、手間とか愛情の類いのような気がする。それとも、こういう味覚なのか?

「実は、料理はあまり好きじゃないの。面倒で。それに朝、急いで作ったから。」
彼女は恥ずかしそうに言った。
「そうなんだ。」
まだまだ、俺達、知らない事だらけなんだな。

「俺、飲み物買ってくるよ。何がいい?」
そうだ。飲み物の好みだって知らない。
「君と同じものを。」
「了解。」
俺が何を飲むのか、彼女は知っているのだろうか。。

 静かな廊下を独りで歩く。いくつかの部が活動していたが、校内はガランとしていた。冬の空は晴れていてもどこか寂しそうだ。緑茶を2本買って部室に戻ると、彼女は机の上に腰掛けて窓の外を眺めていた。少しだけくせのある栗色の髪、小さい頭、細い肩。寒い部室がなおさら寒く感じる。

「ソファ、背が低くて座りにくい。何も見えなくなっちゃう。」
「疲れたときはいいけどな。」
心なしか、声まで小さく聞こえる。俺はソファに座って、彼女と窓の外に見える空を見上げた。
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