坂道では自転車を降りて
「なんか前にもここで、こんなことあったような気がするし、初めてキスした時もそうだった。いつも君から突然、一方的に始まって、終わってから私が気付く感じ。」
そういえば、そうだった。

「ごめん。もっとゆっくり、一緒に、君を待ったほうが良いのは、、分かってはいるんだけど。」
「もういいよ。多分、私の方がズレてるというか、モノ知らずなんだと思うし。。」

 いや、君がそれを望んでいない事に、俺は気付いていた。でも止められなかった。鈴木先輩はちゃんと止めたのに。
「でも、好きなんだ。君が。。できるだけ、大事にするから。これからも、その、、僕の彼女で、いてくれる?」
「ううん。。。。。私の方こそ、変な子でごめんね。」
別に変ではないと思うけど。ああ、変は褒め言葉なんだったっけ。

「帰ろうか?」
「うん。」
俯いたまま淡々と話す彼女の表情は、喜びも憂いもなくただ静かで、何を考えているのかよく分からなかった。

 部室には来年まで誰も来ないはずだから、ペットボトルやパンのゴミを袋に詰めて持ち帰る。帰り支度を整えて彼女を見ると、目が合った。多分俺は不安そうな顔をしていたのだろう。彼女は切なげに、でもなんとか笑ってくれた。作り笑いかもしれないけど、俺を許すという意思表示にも思えた。

思わずホッと息が漏れる。彼女は俺に近づいてきて、俺の袖口を掴んで言った。
「神井くんが好き。だから、いいの。」

 そんなこと言われたら、今ここでもう一度押し倒してしまいたくなるじゃないか。頼むからそんな切ない笑顔をみせるなよ。
「。。。。よかった。ごめん。本当にごめん。もうしないから。」
「もういいって。さぁ、帰ろっ。ね。」
彼女は明るく言った。
「うん。」
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