坂道では自転車を降りて
夕焼けの帰り道
 夕暮れの道を、彼女は細い歩道の上を、俺は車道の端を自転車を押しながら歩く。いつもは素通りしてしまう景色を今日はゆっくりと眺めながらあるいた。ブロック塀が夕焼けに色づき、俺達の影を映した。

「神井くんは、あんな沢山の物語をどうやって作るの?」にっこりと笑いかける。ちょっとわざとらしい。
「さあ、、本を読んだり、普通に過ごしていて、”あっ”って思うんだ。君と話してる時とかも多いよ。で、頭の中で混沌としてるものの中に”あっ”が落ちると、勝手にいろんなもんがくっつく。ズルズルと。」

「勝手に出てくるの?」
「勝手に出てくるね。自分でも思ってないものが出て来たりして、勝手にできあがる。書いてやらないと膨らみすぎて頭の中が苦しくなってくるんだ。だから書いてる。他人が読める形に書き上げるのは大変だけど、楽しいよ。」
「ふーん。。楽しいのか。いいなぁ。」
「君だって、絵を描いてて楽しそうだよ。俺は描けないから、うらやましいよ。」

 夕焼け雲が輝いていた。子供の頃は毎日のように眺めた空。いつの間にか見なくなっていた。見なくなった事にも気付いていなかった。美しい空。
「キレイだね。なんか、久しぶり。」
彼女が言った。
「本当だ。」
「小さい頃は毎日のように眺めてたのに。次はいつ眺めるんだろう。」
「俺も、今、同じ事考えてた。」
あぁ、なんて気の利かない台詞。
でも、俺達は、きっと、ずっと一緒にいられる。何故だかわからないけど、そんな気がした。
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