坂道では自転車を降りて
 映画館に着いてチケットを買う。俺が奢ろうとすると、「お互いスネカジリなんだし。」と言って、彼女は自分の分を払った。俺はアルバイトをしているので、高校生にしてはそれなりの金を持っていたが、彼女は親にもらった小遣いだけらしい。
 進学校だからか、アルバイトをしている生徒は珍しかった。家庭に事情のあるやつか、アルバイトに興味のあるやつだ。俺は以前は後者だったが、最近、前者になってしまった。確かに、親に養われているやつに奢られても、不可解な気分なんだろうし、親父が失業中なのを気にしてるんだろうな。

 劇場へ入り並んで座る。彼女はベージュのコートを脱ぐと、畳んで膝に置いた。中は白のヒラヒラしたブラウスに茶色いカーディガンを羽織っていた。大人しく落ち着いた女の子の印象だ。中身は違うんだけどね。心の中で笑う。
 
 開演まで間がある。何、話したらいいんだろ。そわそわしていると、彼女もやっぱりそわそわしているようだった。目が合うと恥ずかしそうに目を伏せた。

「制服以外の服を着てるの、見るの初めてだ。」
「そうだね。なんか新鮮。神井くんジャンバーなんだ。」
「?」
普通そうじゃないのか?
「学校にはコートで来るでしょ?私も詰め襟の君しか知らないから。」
「ああ、そうだね。」
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