坂道では自転車を降りて
大野さん、ひどいよ。
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 春の公演の脚本は、一年生にも書かせていた。一年前の公演で俺の脚本が使われた事を思えば、一年が書けるなら書いた方がいい。文化祭後くらいから全員に打診はしてあり、生駒さんが意欲を見せていた。だが、いざ書くとなると気後れするのか、まだ一度も見せてもらった事がない。どの程度書けているのだろうか。相談にのってやった方がいいのだろうか。でも俺も結局は1人で書いたし、今は何をしてやったらいいのか見当もつかない。

 もちろん自分の脚本も書いた。保険にもなるし、2年生は引退公演でもあるのだから、少しでも良い脚本を書いて有終の美を飾りたい気持ちもあった。しかしながら正直なところ、文化祭の時ほどのモノが書けた気がしなかった。どうにも頭が恋愛モードなのだ。でも、新入生歓迎公演に恋愛モノはそぐわない。

 ピアノをモチーフに書いた1本も仕上げて部室の棚に入れたけど、この本は川村のような作曲家がいなければ上演は難しいだろうな。多恵に見せると、「これ川村くんだね。」と寂しそうに言った。今回使わなくても、部室に置いておいたら、いつか使われる事もあるかもしれない。いや、ないな。でも参考程度になればそれでいい。

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