坂道では自転車を降りて

 西棟の3階まで来ると、廊下で彼女と田崎が手を繋いで立っていた。すごく顔が近い。。。なんだこの絵は?脚が止まる。
「ほんとにごめん。」
彼女が田崎に謝っている。
「だ、大丈夫だよ。気にしないで、もう行きなよ。急いでるんだろ?」
田崎の顔が赤い。
「あ、神井くん、来てくれたの? 田崎くん、本当にごめんね。なんかあったら、ちゃんと教えてね。またね。」

 彼女は俺に気付くと、田崎と別れてこちらに駆け寄って来た。にっこり笑う。田崎もホッとした顔をして、屈託の無い笑顔で「よう。」と俺に手を振った。
「早かったね。帰ろ。」
弾むような笑顔。
「。。。。。」
それより、今、手を繋いでなかったか?

「今日は自転車?」
「あぁ。」
何事も無かったかのように歩く彼女。見間違い?じゃなかったよな。今のは何だったんだ?なんか言えよ。

「文芸部で何してたの?」
「あー、うん。友達に挿絵を頼まれたんだ。ほら、エリちゃん。文芸部なんだ。」
ちょっと早口で喋る。多分、少し焦ってる。
「ああ、ベスね。」

挿絵を文芸部の部室で描くのかな。絵を描くんだったら、家とか美術室とか、それなりの場所で描く筈だ。何度も西棟に通うのは何のため?それに田崎は?なんで一緒にいだんだ?なんか、おかしくないか?だーっ。もやもやしてるんだったらさっさと聞けば良いだろ。俺。
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