坂道では自転車を降りて
「うふふ。」
ニコニコ笑う彼女。なんか良い事あったのかよ。満面の笑顔でこっちを見て、少し怪訝な顔になる。
「演劇部、なんでこんなに早く終わったの?」
「風邪ひきが3人。原もだるいって。他もいろいろ用事があって。ぐだぐだ。」
「そうなんだ。上手く行ってないの?」
「いや、多分、今日だけだよ。順調だよ。」
「そう、ならいいけど。」

 一階に下りて、下駄箱まで歩く。彼女は上機嫌で次から次へといろんな話題を振ってくるが、俺は気のない相づちしか打てなかった。なんだろう。いつもなら何を話そうなんて考えなくても、ずっと話が続くのに、今日は何を話していいのか分からない。やっと下駄箱についた。駐輪所から校門を出て、もう少し歩く。校則では2人乗りは禁止だから。いつの間にか彼女も黙って歩いていた。

 いつもの曲がり角を曲がって、学校が見えなくなると、彼女を乗せる。彼女は俺の腰に手を回し、頭を背中にすりつけた。「んにゃあ。」変な声。甘えてるつもりなのかな。でも、あまり似合ってないな。地面を蹴って重いペダルを漕ぎ出すと、自転車が走り始める。彼女はいつまでも俺の背中に頭を擦り付けて、ごそごそ動いてくすぐったい。4月には俺達は進級する。最後の公演を終えて部も引退だ。あと何回、こうやって彼女を乗せて走れるんだろう。

 坂道に差し掛かると「がんばれっ」と言いながら俺の背中を押す彼女。気分的には前に進んでるような気がするけど、荷台に乗ってる彼女が俺の背中を押しても、なんともなるわけがない。おかしくて吹き出してしまい、かえって脚から力が抜けた。多分、わかっててやってるんだろう。変なジョークだ。自転車を停めひとしきり笑う。彼女も荷台の上で俺の腹に手を回したまま笑った。こーゆーところ、可愛いな。さっきのは、多分、何かの間違いだ。

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