坂道では自転車を降りて

 もうすぐ公演というある日、ふらりと先輩達が現れた。笠原前部長と鈴木先輩に清水先輩だ。学校に進路の報告に来たのだろう。鈴木先輩は第一志望にパスして、4月からは下宿生活だそうだ。せっかくなので通し稽古を見てもらう。
 
「やっぱりお前の書く本は面白いな。文化祭の時のファンタジーもすごく良かったが、俺はやっぱり、去年の春のやつとか、こっちの方がいい。自分がみえるっていうか。」
鈴木先輩はそういいながら、引き戸を眺めた。

「これ、俺が一年の時に作ったんだ。設計は先輩だったけど。まだ動くのか。懐かしいな。大変だったんだ。設計通り作った筈なのに、ちっとも動かなくて。先輩と一緒に、あーでもない、こーでもないって、スルッと動くまでに1週間くらいかかっちゃって。笑。」
「そうなんですよ。この引き戸が上手く動いたから、本棚を作る時間がとれたんです。これ結構デリケートなんですね。まず立てないと動かないし、くさびとかネジで歪みや隙間を調整できるようになってたり。苦労の後がよくわかりました。サイズも図面と違うじゃないですか。最初気付かなくて。そういうのちゃんと書いておいて下さいよ。」
多恵が言う。

「俺、4月にはこっちにいないから。今日は見られてよかったよ。多恵も元気そうだな。」
先輩はまた彼女の頭を掴んでわしわしと撫でた。キャッキャと笑う彼女。清水先輩ももう何も言わなかった。
「私ももう引退ですよ。早いですね。」
「俺は一年、長かったぞぉ。勉強ばっかりで・・・・。」
「うへー。憂鬱。。」

「神井はどうだ?多恵はめんどくさいだろ。」
「。。。。。はい。」
「神井くん、ひどい。」
「泣かせてないか?」
「。。。。」
「。。。。」
2人で黙秘する。
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