坂道では自転車を降りて


 彼女が俺の部屋に来るという約束は、まだ果たされずにいた。春休みは部活に忙しかったのと、俺の親父の引っ越しやら、彼女の弟の試合やらで、結局都合をあわせられなかったからだ。春休み前から母は親父の転職先の金沢に行くことが増え、何日も家をあけたりしていた。彼女を呼んでも構わないのかもしれないけど、女の子を初めて家に上げるのに、親の留守中ってどうなんだろう。もちろん、母親にはダメだと釘を刺されてる。だが、兄さえ黙ってりゃバレはしない。彼女に事情を話すと、彼女はかなり悩んでやめようと言った。『次に君のお母さんと会った時、顔に出ちゃいそうだから。』だって。でも、だったら、いつになったら良いんだろう?大事なのは俺達のというか、彼女の気持ちだと思うんだが。。ようするに、断ったという事は、多分そういうことなんだろうな。

「今度の土曜、予定ある?図書館とかで一緒に勉強しないか?」
もしかしたら今週は母さんが家にいるかもしれない。そしたら部屋に誘ってみよう。
「ごめん。今週の土曜は晴れてたら出かけるの。」
そっか。残念。
「そうなんだ。雨は降らなそうだね。」
「だね。」
「俺は日曜でも良いよ。」
もうちょっと粘ってみても大丈夫かな。ウザいかな。
「でも、降ったら順延なんだけど。」
これは、ダメってことだよな。彼女は他人と出歩くと疲れるのか、週末のどちらか一日は家で静かに過ごしたいって、以前言ってた。

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