坂道では自転車を降りて

 担任は言いづらそうに話しはじめた。要するに彼女の成績が不審続きなのは、俺と付き合いはじめたからだ、というのが、彼女の2年の時のクラス担任の推論だった。公立高校である我が校の生徒間の恋愛は基本、自由だ。売春や強姦でもしない限り、教師にとやかく言われることではない。ただ、俺は素行が悪いわけではないが、扱いにくい生徒として職員室でも有名人だった。顧問と怒鳴り合う姿を見た彼女の担任が、彼女の負担になっていると結論づけても不思議はない。演劇部顧問でもある俺の現在の担任は、その件で昨年から相談というよりは苦情を受けていたらしい。その後もそれとなく彼女を見ていて、今の彼女を心配して俺に声をかけてきたのだ。

「大野は球技大会の日、学校来てたか?」
「来ていないと思います。」
「なんで来なかったか知ってるか?」
「俺と、、喧嘩してて。顔をあわせたくなくてサボったそうです。」
「そうか。来てなかったか。」
顧問は盛大にため息をついた。
「球技大会だったから、遅刻とか早退がきちんとチェックできなくてな。欠席はついてないそうだ。」
「そうなんだ。」
「大野はずっと無遅刻無欠席の皆勤賞だったんだ。」
「知ってます。」
俺は視線を落とした。どこを見たらいいのか分からない。
「お前ら3年なんだぞ。何をやってるんだ。」

< 690 / 874 >

この作品をシェア

pagetop