坂道では自転車を降りて

 前にこの部屋に来た時、彼女は俺にすべてを委ねると言った。俺が決めて良いと。もちろん、乱暴していいとは言ってないけど、今すぐ抱かれても良いと言ったのだ。それにしたって、タイミングとかやり方とか、いろいろあるだろう。俺はちゃんと、彼女に優しくしてあげられるのか、ちょっと自信がない。下手に手を出して、彼女を不安定にさせて、受験に失敗でもされたら、責任がとれない。ただでさえ俺と付き合い始めてから、彼女の成績は急降下していて、顧問にまで心配されている。思うに、ずっと情緒不安定気味で勉強に集中できないのだ。

 午後になり彼女が現れた。暑いからか、長い髪を後ろで結い上げ柔らかな髪飾りで飾り付けている。細い首。白いうなじから続く薄い肩。いつも以上に小さく見える頭。真っ白な襟が涼しげな、落ち着いた薄茶色のワンピース。ノースリーブの肩から伸びる二の腕の内側が真っ白で、血管が透けて見えそうだ。ツルツルして柔らかそうで、ドキドキする。
 後から思えば、似合ってるとか、キレイだとか、何か言ったら良かったんだろうけど。その時の俺は、馬鹿みたいに口を開けて、ただ、平静を装うのが精一杯だった。

 サラサラと柔らかそうな生地に包まれた身体のラインは肉感的で。。。とにかく、いろいろ、なんというか。その。。。すごく素敵だったのだ。
 後れ毛を耳にかける仕草がいつにも増して色っぽい。あの指の爪を剥がすなんてありえない。その時、俺は決意した。気が変わらない間に彼女に告げてしまおう。

「自分で決めて守れるかどうか、あまり自信がないんだけど、一応、俺、決めたから聞いて。卒業っていうか、進路が決まるまでは、その、セックスはしないことにした。いい?」
 俺も彼女も初めてだ。それによってお互いの関係がどう変わるかなんて予想もつかない。妊娠する可能性だってゼロじゃない。とりあえず、受験が終わるまでは避けた方が無難だ。だが、それを伝えずにずっとこのままでいて、逆に彼女が不安にならないかも心配だった。

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