坂道では自転車を降りて

 梯子に縛り付けられた彼女は既に息も細くなっていた。男がなおも彼女を執拗に枝で叩いている。着物は裂け、白い肉が割れて血がにじんでいる。俺は声も出せずに立ち尽くし、彼女を凝視していた。反応も薄くなり、力なく頭を垂れる彼女の乳房に、男は今度はあかあかと焼けた炭を押し当てた。悲鳴をあげて泣き叫ぶ彼女。やがて再びぐったりと目を閉じ、うっすらと開いた口から涎をたらす。いつの間にか俺は彼女の傍に立っていた。男なのか俺なのか、彼女の腕をとり、その細くしなやかな指先に口づける。そして爪を小刀で剥がしとった。彼女は脂汗を流して悶絶する。ふと髪をかきあげる時に、軽く握られ、たおやかに揺れた指先が、紅く爛れ、血をにじませている。俺は彼女の横に跪き、震えながら彼女の手をとった。爪を剥がされた指を口に含むと血の味がした。彼女の口から獣のような悲鳴があがる。俺は愛撫するように、彼女の指を舐め続ける。彼女は長い髪を首筋に張り付かせ、痛みに怯えて泣きながら、救いを求めて俺をみた。彼女を救いたいという気持ちと裏腹に、この苦痛に歪む顔をもっと見ていたいという衝動がざわざわと湧き上がる。その後も俺は執拗に彼女を責め続け、苦痛に歪む表情に、悲鳴に、力なく倒れた頚に、興奮し続けた。

 びっしょりと汗をかいたシャツ。布団までがまるでバケツの水をこぼしたかのように濡れていた。俺はシーツを剥がして布団を干してから、風呂場に向かった。

 その日、彼女が俺の部屋に来る事になっていた。夏休み、暑さをしのげる図書館はどこもいっぱいで、なかなか2人で並んで勉強できなかったので、俺の部屋に呼んだのだ。もちろん、母さんがいることを前提に。部屋に呼ぶのは初めてではない。ちゃんと勉強したら、少しくらいイチャイチャしたって構わないだろうし、彼女だってそれを望んでいるはずだ。だが、今朝の夢を思い出すと、2人きりになったとき、自分が何をしてしまうのか、少し怖くなった。

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