坂道では自転車を降りて

 おもむろに彼女が視線をあげた。
「そんなに・・・」
「もう・・・」
俺と彼女の声が重なり、ふたりとも口をつぐんだ。
「もう・・何?」
 俺が尋ねると、彼女はまた黙った。床の上へ視線を泳がせ、何か言葉を言おうとするけど、なかなか出てこない。『もう・・』何だろう。。『もう学校へは来ないで欲しい』だろうか。それとも、『もう別れたい。』ってまた言うのだろうか。彼女の声は震えていた。もう半年以上付き合ってるのに、やっぱり俺って、そんなに怖いのかな。

「そんなに怯えなくていいよ。もう、何もしないから。」
 何かを言おうとしていた彼女の呼吸が止まった。驚いたように俺を見て、一瞬ぽかんとした。でもすぐに口元を引き締めた。みるみる瞳が潤みはじめる。
「わかった。」
 絞り出すようにそう言うと、部室を出て行こうとドアを開けた。俺はびっくりして追いかけようと身構えた。だが、部室の前の廊下には隣の部室で活動を終えたブラスバンド部の人だかりが出来ていたため、泣き顔の彼女はすぐにドアを閉めた。ドアの前で息を吐くと、顔を伏せたまま俺の横を通り過ぎて、今度は倉庫に入ってしまった。

 あれ?俺、今なんか言ったか?慌てて追いかけると、彼女は倉庫の隅でシクシク泣き始めた。
「多恵?どうしたの?なんで泣くの?俺まだ何も。。」
「ごめん。見ないで。もうわかったから。行って。」
「行ってって。なんで?何がわかったの?まだ何も話してないのに。俺がわかんないよ。」
「もういいの。大丈夫だから、見ないで。もう行って。」
「よくないよ。え?俺まだ何もしてないよな?なんで泣いてるの?」
「鍵も私が閉めるから。」

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