坂道では自転車を降りて
少し離れた所に空いた席を見つけ飯塚と座る。考えたら飯塚は本当に演劇部の公演を見たかったのかな。俺も多恵も抜けた演劇部に飯塚の知り合いなんかいない筈だ。本当に付き合いのいいヤツだな。ってか、普通にいいヤツなのに、どうしてコイツには彼女が出来ないんだろう。
演劇部の演目では、結局、山田が舞台に立つらしい。あの後、生駒さんが自主的に完全休業宣言したと、椎名に聞いた。今は部室に顔さえ出さないらしい。彼女が書いてここまで演出した舞台を途中で手放すのは、本当に無念だったろう。だが、彼女が生まれ変わるためには、それなりの時間が必要だとも思った。この後、生駒さんがどうするのかが気になる所だが、それは彼女の考える事だ。だが、彼女なら転んでもタダでは起きないような気がする。今は演劇部を辞めたとしても、きっと何かを掴んでくれるだろう。
演劇部の舞台はストーリーに少し纏まりを欠いているような気がしないでもないが、熱の入ったいい劇だった。後輩の成長した舞台を見て、俺はなんだかとても嬉しかった。次はコンクールだな。今年こそ最優秀賞がとれたら良いな。
夕方 彼女と待ち合わせて一緒に帰る。一学期末頃から、彼女は自転車で登下校するようになった。住宅街の中、一人なら立ち漕ぎで一気に上がる坂道を、2人それぞれ自転車を押しながら並んで歩く。
「演劇部、すごく良かったね。」
「ああ、いい出来だった。」
「私、生駒さんと話したよ。」
「へぇ。何て言ってた。」
心臓がキュッと締まる。平静を装ったけど、ちょっと声が震えたかも。