甘い恋の賞味期限
 名前を呼ばないのは、千紘とあまり親しくならないように、と言う千世なりの境界線のつもりだった。名前を呼べば、そのうち感情移入でもしてしまいそう。
 そもそも、千紘とはもう会わないだろうと思っていたし。

「……ちひろ、ってどう書くの?」

「えっと……これ! これがオレの名前」

 ポシェットにあるネームタグには、漢字で千紘と書かれている。

「ふ〜ん。同じ漢字があるわ」

「そうなのか? 書いてくれ!」

「今、卵を割ろうと……まぁ、いいか」

 プリンを食べたから、お腹はある程度満たされているし、名前を書くくらいの時間はある。ふたりは居間へ移動し、千世は片面が真っ白な広告を探す。

「これが、君の……千紘の名前ね」

「うんうん」

「で、こっちが……私の名前。千世と千紘、千の字が同じでしょ」

 千世が名前を書いた広告を、千紘がまじまじと見つめている。
 そんなに凝視するようなものではないと思うが……。

「おんなじだ……やっぱ、千世はオレの母ちゃんになるべきだな!」

「どういう結論に至ったのよ、名前だけで」

「だって、おんなじ名前だぜ!」

(そう言えば、私の名前って父さんと母さんの名前の一文字を取ったのよね。……千紘が言いたいのは、そういう意味、かしら?)

 自己完結してみたが、多分、間違っていないと思う。単純な考え方のようにも思えるが、それだけ千紘は、自分のことを気に入っているわけだ。

(でも、どうして私に懐いてるわけ? 優しくはないし……)

 ほっぺもみょーんと伸ばしたし、優しい言葉もかけてはいない。
 それなのに、千紘は随分と懐いているように思う。
 もし懐いている可能性があるとしたら、それはひとつだけ。

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